高齢犬ケア入門 認知症のサインと家庭でできる予防策

高齢犬の飼い主が直面する最も心配な問題の一つが認知症です。愛犬がいつもと違う行動を見せ始めたとき、それが単なる加齢現象なのか、認知症のサインなのかを見極めるのは重要なポイントです。この記事では初期症状の特徴から家庭でできる具体的な予防法まで分かりやすく解説します。
犬の認知症とは何か
犬の認知症は正式には「認知機能障害症候群」と呼ばれ、加齢に伴う脳神経細胞や自律神経の機能低下によって発症する進行性の病気です。小型犬では10歳以上、大型犬では8歳以上から症状が現れやすくなり、13~14歳頃から急激に増加する傾向があります。脳内ではアミロイドβなどの沈着物や活性酸素が増加し、対照的に脳細胞数や脳血流量が減少することが知られています。
見逃してはいけない初期症状

方向感覚の障害
家の中で迷子になったり、いつも通っている場所で急に立ち止まる、部屋の隅でうろうろするといった症状が見られます。飼い主を認識できなくなったり、壁の前でぼんやり立ち尽くす行動も特徴的です。
睡眠パターンの変化
昼夜逆転が典型的な初期症状として挙げられます。昼間の睡眠時間が増え、夜鳴きを伴って夜間に起きている時間が長くなります。最初は「なんとなく寝てばかり」という程度ですが、進行すると夜中から明け方にかけて覚醒し、飼い主の制止が効かなくなります。
トイレの失敗
これまで問題なくトイレができていた犬が、突然トイレの場所を忘れて家の中で失敗することが増えます。排泄前のウロウロやグルグルなどの前兆がなくなったり、お漏らしするようになることもあります。
社会的交流の変化
飼い主の帰宅時に迎えに行かなくなる、なでられても喜ばなくなる、無表情で尻尾を振らなくなるといった変化が見られます。子どもや同居の動物に対して攻撃的になることもあります。
無目的な行動
意味もなく同じ場所を何度も歩き回る徘徊や、自分を中心に円を描くように歩き続ける旋回運動が現れます。壁に向かってじっと立っている、狭いところに入って出てこられないといった行動も典型的です。
家庭でできる認知症予防法

脳への刺激を与える方法
認知症の進行を早める原因の一つに脳への刺激不足があります。ノーズワーク(嗅覚を使って食べ物を探すゲーム)、知育玩具を使った遊び、かくれんぼ、散歩コースの変更など、さまざまな方法で脳細胞を活性化させることができます。
知育玩具では、おやつを入れて転がすパズルボール、嗅覚を使って探すマット、音の出るおもちゃなどが効果的です。「お手」「おすわり」などのコマンドを日常生活で継続的に使うことも、愛犬の脳の活性化につながります。
適切な運動と日光浴
運動不足の犬は認知症になりやすいとされているため、日光浴を兼ねた散歩が重要です。日光を浴びることでセロトニンの分泌が促され、ストレス軽減や体内時計の調整、質の良い睡眠へと導かれます。自力で歩けない犬でも、介助ハーネスや抱っこ、ペットカートを利用して散歩に連れ出してあげることをおすすめします。
栄養面でのサポート
認知症予防に効果的とされる栄養素として、DHA・EPA、ビタミンE・C、β-カロテン、フラボノイドなどの抗酸化物質があります。魚類、果物、野菜を含んだバランスの取れた手作り食や、これらをドライフードにトッピングする方法も効果的です。
研究では、DHA・EPAを含むサプリメントを28日間給与した結果、認知症犬で夜鳴きの消失や排尿習慣の改善が認められました。ビタミンC、E、L-カルニチン、α-リポ酸などの抗酸化物質を豊富に含む食事は、高齢犬の記憶力と学習能力を改善することが報告されています。
デンタルケアの重要性
意外に見落とされがちですが、口腔衛生は認知症を含む全身の健康に大きく影響します。3日に1回は歯磨きを行い、治療が必要であれば早めに対処することで、認知症予防にもつながります。
効果的なサプリメント選び
市販のサプリメントでは、DHA・EPA、フェルラ酸、イチョウ葉エキス、GABA、L-テアニンなど複数の有効成分を組み合わせたものが推奨されています。単一の成分よりも、複数の有効成分を組み合わせた方が効果を発揮することが研究で示されています。
「Senilife」や「Aktivait」といった認知症対策用サプリメントは、ホスファチジルセリン、イチョウ葉エキス、各種ビタミン、コエンザイムQ10などを含み、症状改善効果が報告されています。
早期発見のための定期チェック
シニア期(小型犬7歳頃、大型犬5歳頃)に入ったら、年に1度は健康診断を受けることをおすすめします。認知症のような神経に関連する病気は症状が分かりにくく、飼い主だけでは判断できないため、獣医師との細かな相談が重要です。

日常的なチェックポイントとして、トイレの失敗頻度、睡眠パターンの変化、飼い主への反応、徘徊行動の有無などを記録しておくと、早期発見につながります。
家庭環境の整備
認知症の犬が安全に過ごせるよう、家庭環境の見直しも大切です。階段や段差への柵の設置、角のクッション材での保護、迷子になりやすい場所の通路確保などを行いましょう。夜鳴き対策として、防音対策や近隣への事前説明も検討が必要です。
食事管理のポイント
高品質なフードの継続給与は認知機能維持に重要です。スロバキアの調査では、管理された高品質な食事を与えられた犬に比べ、管理されていない食事を与えられた犬の認知機能低下リスクが2.8倍高かったことが報告されています。
ドライフードを使用する場合は、開封後の酸化を防ぐため、小袋での購入や密閉保存、冷暗所での保管を心がけましょう。特に不飽和脂肪酸を多く含むフードは酸化しやすいため、1か月以内に消費することが推奨されます。
まとめ
犬の認知症は完全に予防することは難しくても、早期発見と適切なケアにより進行を遅らせることは可能です。日々の観察による症状の見極め、脳への適度な刺激、栄養面でのサポート、定期的な健康チェックを組み合わせることで、愛犬の認知機能を長期間維持できる可能性が高まります。
重要なことは、症状が進行してから対策を始めるのではなく、シニア期に入った段階から予防的なケアを始めることです。愛犬との絆を深めながら、質の高い老後を過ごすため、今日から実践できる取り組みを始めてみましょう。
